次世代燃料車


自動車の次世代燃料は、地球温暖化対策やエネルギー安全保障の観点から、世界中で開発・普及が進められています。主な種類とそれぞれの特徴、メリット・デメリット、開発状況について解説します。

1. 次世代燃料の種類

自動車の次世代燃料として注目されているのは、主に以下の種類です。

  • バイオ燃料
    • バイオエタノール: サトウキビやトウモロコシなどの植物、木材などを発酵・蒸留させて作られます。ガソリンの代替として、ガソリンと混合して使用されます(例:E10)。
    • バイオディーゼル燃料: 菜種やトウモロコシなどの植物油、廃食用油などから製造され、ディーゼルエンジン用として使用されます。
    • 次世代バイオ燃料: 微細藻類や木材チップ、製材廃材など、食料と競合しない原料から作られる燃料です。分子構造が石油由来の燃料と同じ炭化水素であるため、既存のエンジンに影響なく100%配合で使用できるとされています。
  • 合成燃料(e-fuel)
    • CO2と水素を原料として合成される燃料で、「e-fuel」とも呼ばれます。空気中のCO2を回収して再利用する「カーボンリサイクル」の取り組みの一つです。燃焼時にはCO2を排出しますが、製造時にCO2を回収しているため、カーボンニュートラルな燃料として期待されています。
  • 水素
    • 水素を直接燃焼させる「水素エンジン」と、水素と酸素の化学反応で発電し、モーターを駆動する「燃料電池車(FCEV)」の2つのタイプがあります。排出されるのは水蒸気のみで、走行中のCO2排出はゼロです。

2. それぞれのメリット・デメリット

バイオ燃料

  • メリット:
    • 植物由来のため、カーボンニュートラルに貢献できる(燃焼時に排出されるCO2は、植物が成長過程で吸収したCO2と相殺されると見なされる)。
    • 既存のガソリン車やディーゼル車でも使用できる場合が多い(混合割合による)。
    • 特に次世代バイオ燃料は、既存のインフラを大きく変えることなく導入可能。
  • デメリット:
    • 従来のバイオ燃料は、食料と競合する可能性や、原料の栽培に必要な土地や水資源の問題がある。
    • 生産コストが高い場合がある。
    • 燃焼効率やエンジンの腐食性に関する課題が指摘されることもある。

合成燃料(e-fuel)

  • メリット:
    • 既存のガソリン車やディーゼル車、燃料供給インフラをそのまま利用できるため、普及しやすい。
    • 排出されたCO2を再利用するため、カーボンニュートラルに貢献できる。
    • 原油と比べて有害物質の量が少ないため、燃焼時によりクリーン。
    • エネルギー密度が高く、長距離移動にも適している。
  • デメリット:
    • 製造に多大な再生可能エネルギー(電力)が必要となるため、コストが高くなる傾向がある(現状は300円/L〜700円/Lと試算されており、2050年までに200円/L程度に引き下げることを目指している)。
    • 製造時に再生可能エネルギーを使用しないと、カーボンプラスになる可能性がある。
    • 技術開発やプラント建設に時間がかかる。

水素

  • メリット:
    • 走行中にCO2を排出せず、水蒸気のみを排出するため、非常にクリーン。
    • FCEVは電気自動車(EV)よりも航続距離が長く、燃料補給時間が短い。
    • 水素は水からも生成可能で、資源の制約が少ない。
  • デメリット:
    • 水素ステーションなどのインフラ整備がまだ十分に進んでいない(特に日本では限られている)。
    • 車両価格が高価な傾向にある。
    • 水素の製造や貯蔵、輸送にかかるコストが高い。
    • 水素の価格が変動する可能性がある。

3. 開発状況

各次世代燃料は、実用化に向けた開発や実証が活発に進められています。

  • バイオ燃料:
    • バイオエタノールを10%混合したE10ガソリンは、日本でも2012年から導入されています。
    • 次世代バイオ燃料は、いすゞとユーグレナ社が共同で開発を進める「DeuSEL®プロジェクト」など、実用化が進んでおり、一部のレースや商用車で100%代替可能なバイオディーゼル燃料が使用されています。
    • 航空機向けのSAF(持続可能な航空燃料)としての利用も拡大しており、自動車や船舶への適用も期待されていますが、供給量の課題もあります。
  • 合成燃料(e-fuel):
    • 世界各地で実証プラントの建設や生産計画が進められています。日本では、CO2と水素を原料としたe-fuel製造プラントが開発中で、2025年の大阪・関西万博で大型車両の運行に活用される予定です。
    • ポルシェなどの自動車メーカーもe-fuelの開発に注力しており、既存の内燃機関を活用する選択肢として期待されています。
    • コストの引き下げが大きな課題であり、2030年頃までは技術開発・実証フェーズに留まり、2040年以降の商用化を目指しています。
  • 水素:
    • トヨタの「MIRAI」など、FCEVはすでに市販されています。ホンダも2025年にCR-VのFCEV版を導入予定です。
    • 現代自動車や起亜自動車は2025年にも水素燃焼エンジンを搭載した車両を投入する目標を掲げており、ボルボは2026年までにトラックでの水素エンジンのテストを計画しています。
    • GMとホンダは、水素燃料電池システムの商業生産を開始するなど、大手自動車メーカーの投資が続いています。
    • 乗用車よりも、長距離・高積載の大型トラックやバス、船舶など、商用車での水素利用が先行して進むと考えられています。

電気自動車(EV)へのシフトが進む一方で、既存の内燃機関を活用できる次世代燃料は、自動車の多様なニーズに応える脱炭素化の選択肢として、今後も開発が加速していくと見られています。


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